玉縄城は玉縄の城。鎌倉・大船・玉縄、玉縄歴史の会。

令和7年(2025年)1月公開講座『江戸川乱歩が描いた鎌倉、大船、そして玉縄~大正・昭和の情景~』のレポートを掲載

 令和7年(2025年)1月12日(日)当会定時総会の後、会長である土田 真路が『江戸川乱歩が描いた鎌倉、大船、そして玉縄~大正・昭和の情景~』と題した講演を行いました。

ポイント

江戸川乱歩の経歴

江戸川乱歩(本名:平井太郎)は、1894年に三重県名張町で生まれ、1965年に東京都池袋で亡くなった。1916年、早稲田大学政治経済学科を卒業後、大阪の貿易会社勤務を皮切りに、鳥羽の造船所勤務、東京の古書店経営など20の職業を転々とした。1919年に結婚して一男を儲ける。44回の転居を経て、1934年からは池袋に定住し、1965年に亡くなるまでその地で過ごした。
小説家としての3つの時代
 ①本格ミステリー短編時代、②大衆向け娯楽長編時代、③少年少女向け探偵団時代
ミステリー業界における3つの活動
 ①評論家・研究者活動、②編集者活動、③同業者団体創設活動


鎌倉が描かれた作品


『孤島の鬼』:1929(昭和4)年1月~1930(昭和5)年2月 / 月刊誌 朝日(博文館)連載
<あらすじ>
 貿易会社勤務の箕浦(みのうら)金之助は同僚の木崎初代と恋仲になったが、初代は自宅の寝室で殺されてしまう。事件解決を依頼した素人探偵深山木(みやまぎ)幸吉も殺されてしまい、箕浦は、年上の青年・諸戸(もろと)道雄と共に、初代の遺した手掛かりを追って、南紀の孤島へ向かった。

【深山木探偵の殺害現場・・・鎌倉の海水浴場
 ※海水浴場の歴史と昭和4年当時の状況

『何者』:1929(昭和4)年11月~12月 / 日刊新聞 時事新報 夕刊(時事新報社)連載
<あらすじ>
 松村は大学を卒業した最後の夏休みを、同窓の結城弘一と彼の父親の邸(やしき)で過ごしていた。ある晩遅くに、弘一がピストルで撃たれ重傷を負う。強盗の仕業と思われたが、松村は独自の推理を進めていく。
【結城少将の邸宅・・・鎌倉の少し向うの海近く。由井ヶ浜と片瀬の中間位の所
【事件の解決に出動した警察・・・鎌倉の警察署
【被害者が担ぎ込まれた病院・・・鎌倉外科病院

 ※鎌倉の別荘・住宅事情、軍人(将校)の住宅があった地区
 ※江ノ電の沿革、鎌倉警察署の沿革、鎌倉に古くからある病院

『盲獣』:1931(昭和6)年2月~1932(昭和7)年3月 / 月刊誌 朝日(博文館)連載
<あらすじ>
 浅草レビュー界の女王」水木蘭子は、何者かに騙され、奇怪な地下室に連れ込まれてしまう。そこには、触覚の欲望を満たすためだけに創り出された世界が広がっていた。
【胴体のない女性の死体が発見された場所・・・鎌倉由井ヶ浜の海岸
【東京から百里も離れた湾を走る汽船の三等船室で『鎌倉ハム』が大安売りされる】

 ※鎌倉ハムの歴史

『恐怖王』:1931昭和6)年6月~1932(昭和7)年5月 / 月刊 講談俱楽部(大日本雄弁会講談社)連載
<あらすじ>
 ロイド眼鏡をかけた美術家風の男と、ゴリラに似た不男(ぶおとこ)は、霊柩車をすり替えて、銀行家令嬢の美しい死体を盗み出した。二十歳にもならない死美人は、『恐怖王』という文身(いれずみ)を刻み付けられた姿で発見された。次に狙われたのは、貧乏探偵小説家、大江蘭堂の恋人だった。
【飛行機が空に文字を描く現場、文字が描かれた砂浜・・・鎌倉の海岸
【喜多川夏子邸・・・鎌倉のお屋敷


『押絵と旅する男』:1929(昭和4)年【旅行先が鎌倉】
『蟲』:1929(昭和4)年【約束した旅行先が鎌倉】
『大暗室』:1936(昭和11)年【邸宅が鎌倉】
『悪魔の紋章』:1937(昭和12)年【散策先が鎌倉】
『女妖』:1954(昭和29)年【高徳院の鎌倉大仏】
『十字路』:1955(昭和30)年【夢見る居住先が鎌倉】


江ノ島が描かれた作品

『蜘蛛男』:1929(昭和4)年8月~1930(昭和5)年6月 / 月刊 講談俱楽部(大日本雄弁会講談社)連載
<あらすじ>
 好みの容貌の女性ばかりを狙って誘拐、惨殺する”青髭(あおひげ)”こと蜘蛛男。何の動機も理由もなく、ただ好みに適った女性を手当り次第に犠牲者として選ぶ戦慄すべき犯罪は、若き女性達の間に大恐慌を引き起こした。義足の犯罪学者・畔柳(くろやなぎ)博士が独自の捜査を進めていくが、無理がたたって博士は思わぬ負傷をしてしまう。
【美しい人魚が死んでいた場所・・・江ノ島の水族館
 ※江ノ島水族館の歴史
【里見絹枝が運ばれた道・・・旧国道1号線
 ※国道1号線の歴史


大船が描かれた作品

『パノラマ島奇譚』:1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月 / 月刊 新青年(博文館)連載
<あらすじ>
 三十を過ぎても定職に就かず、自身の理想郷を夢見て、その日暮らしを続けていた人見廣介は、ある日自分と瓜二つの同級生が死んだことを知る。死体と入れ替わり墓場から蘇ることに成功した彼は、手に入れた大富豪としての巨万の富を、惜しげもなく注ぎ込んで、夢の国の建設に邁進した。
【人見廣介の宿泊先・・・大船の安宿
 ※大船駅の表駅・裏駅の歴史


玉縄が描かれた作品

『黄金仮面』:1930(昭和5)年9月~1931(昭和6)年10月 / 月刊 キング(大日本雄弁会講談社)連載
あらすじ>
 黄金の仮面をかぶった怪人が、銀座をはじめとする東京市中に出没し、人々の話題をさらっていた。遂には、上野公園で開催中の産業博覧会に出品された『志摩の女王』と名付けられた日本随一の大真珠を白昼堂々と盗み出し、まんまと逃げ去った。黄金仮面の下に隠された賊の正体が何物であるのか、全然不明なことが一層人々を怖がらせた。
【盗んだ宝の届け先・・・白き巨人(大船観音)
【賊の逮捕に出動した警官・・・O警察署員(大船警察署員)
 ※大船警察署の沿革


『灰色の巨人』:1955(昭和30)年1月~12月 / 月刊 少年クラブ(大日本雄弁会講談社)連載
<あらすじ>
 20年前に東京の博覧会会場からアルセーヌ・ルパンが盗み出し、明智小五郎が取り戻した真珠塔『志摩の 女王』が、再びデパートの宝石展覧会の会場から盗まれた。犯行声明を出した『灰色の巨人』と名乗る怪盗は、少年探偵団員の園井正一君の父親が持つ『にじの宝冠』も狙っていた。
【賊の住みかの宝石美術館・・・横浜から5キロほどむこうの観音さまの坐像(大船観音)
 ※大船観音建立の沿革


『かいじん二十めんそう』
 1959(昭和34)年11月~1960(昭和35)年3月 / 月刊誌 たのしい一年生(講談社)連載
 1960(昭和35)年4月~12月 / 月刊誌 たのしい二年生(講談社)連載
<あらすじ>
 しょうねんたんていだんのポケット小ぞうが、十(とお)ぐらいの女の子をたすけるために、あやしいようかんの中へしのびこみ、かいじん二十めんそうに、とじこめられてしまいます。
【二十面相が見つかった場所・・・観音さまの肩(大船観音)
【二十面相の隠れ家・・・大船にある古い西洋館


 地元である鎌倉・大船・玉縄の歴史を文学の視点で語るという、当会の講演では、従来にない新しいアプローチだったと思う。特に、江戸川乱歩の作品における地元の描写についての説明と、歴史や当時の状況、沿革の紹介などを結びつける点は、とても新鮮だった。この点において歴史テーマから逸れることなくストーリーを組み立てたことは、土田会長の並々ならぬ工夫が感じられた。
 この構想については、昨年4月頃から耳にしていた。幼少期から江戸川乱歩の作品を愛読していた背景もあるかもしれないが、数多くの参考文献や資料、写真に目を通し、それらを講演資料にまとめるという労力には感謝の気持ちでいっぱいだ。土田会長、ありがとうございました。
 追伸:天地茂出演の江戸川乱歩シリーズが松竹大船撮影所で撮影されていたことは、偶然とは思えませんね。


当会・土田会長

講演会場の様子
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